インド哲学の大家で,ヨーガの普及に貢献された、立命館大学、大阪大学の元名誉教授、故佐保田鶴治先生の『八十八歳を生きる』(人文書院)という本の中に、真言を唱えることが私たちの意識に強く影響するという話が出ている。なかなか興味深いので、それを少しご紹介する。
私は先生の道場へは過去二回ほど行ったが、勤行で観音さまのマントラ(真言)を何度もとなえていた。
「マントラや象徴が直接、潜在意識に影響するということは、唱えているうちに自分の潜在意識の中にマントラや象徴が入ってきて猛烈な心の波立ち、動きをだんだん変えていくのではないかと考えられます。
これはひとつも説明ですが、こう考えると、色々なことが考えられます。
仏教には「業」という言葉があります。業とは過去世に行った行為の結果が、現在の私たちの環境を作る力です。私たちの心の底を「チッタ」と言いますが、過去に経験した心情の記憶が「チッタ」という心の田地に将来生きてくる種として保存されています。
皆さんはこの世で色々な行いをするでしょう。その時自分がある行いをしたという意識は、はっきりわかっているはずです。
悪いことをしたなら悪いことをした。良いことをしたらいいことをしたと心に意識します。この意識したことが記憶となって「チッタ」には、前世になした多くの経験の記憶が残っており、その記憶の種の中に外の環境を作る種もあります。
これが業です。
人間が不幸な目にあったり幸福な目にあうのは自分で作り出しているのです。(中略)このように不幸な人、幸福な人は自分では自分の環境作ったとは思っていないでしょう。
早い話皆さんがここに集まって私の話を聞いているのも、皆さんがこの環境を作ったからです。
でも皆さんは自分で作ったとは思っていないでしょう。元からあったところで自分が入り込んできただけだと思われるかもしれませんが、「業」の思想から言うと、皆さん自身でこの部屋を作り、私という人間はあなた方が作ったもんではありませんが、私の話は、あなた方がわたしを元にして作ったのだというのが「業」の考え方です。
ですから前世での行いの記憶が人間の心の一番底にある「チッタ」という田地に種として残り、その種が芽生え、あなた方の外界の環境を作った、その記憶のことを 「業」 というのです。」
続く