三井英光大僧正の『密教夜話』から、一部引用。施餓鬼についてわかりやすく説いている。読みやすいよう適宜句読点を加えた。
問 よく「死ぬときの「一念は後をひく」などと申しますが、まんざら憶説ではないのですね。
答 そうです。死ぬと時の一年は、元よりながらその人が一生涯深く思いつめた事は、どうする事も出来ぬ性格となって深く魂の中に刻み付けられて、いわゆる業となり再びそれにより生まれ変わって来るのです。
したがって、ここに勝れた秘法に遇わざる限り、それらの亡霊は迷い路深くさまよって救われる時がないでしょう。しかるに、人生の深い趣を究め宇宙の真実を覚り給えるお釈迦様の教法によって、あたかも焔を吐くような熱病患者が、清冷な水を咽に通したように、餓鬼道に沈んで苦悶せる業も初めて安息を得るのです。
おのれの貪欲より外に眼のなかった餓鬼の心がいつしか失せて、周囲をはぐくむ慈悲の魂に変わってくるのです。
このように仏の光に遇って慈悲に変わった業が、生まれ変わり死に変わり続くようになれば、これらの業に催されて表れた世界は、真に平和な楽土となってくるでしょう。
肉眼に見えざるこのような亡魂を一つ一つ救済していくことも、仏教徒の大切な仕事と思いますね。
施餓鬼はまさに、この仕事を成就する大切な秘法であり、行事であります。