金峯山寺刊 五條覚澄著『人生には奇跡がある』「稲荷山の怪」から
この順番にお山を夜を通して3回練行することを稲荷大神に誓った五條師は、茶屋の京屋さんに荷物を預けて荒神の峰、権太夫大神まで来たのが夜の8時。
雨が降っていた中で修行してやっと京屋まで戻ってきた時には頭からずぶ濡れだったそうである。
稲荷山のお茶屋さん 京屋さん
1回目でこの調子だったので、2回目3回目はこの雨ではできそうもないと考えていたら
「和尚さん中止してはどうですか」と京屋のおばあさん言われたそうだ。
(ここから本から引用したい。)
京屋のばあさんの言葉も迷う心の助け舟、身支度をした私の心はすでに大阪の千林の教会へ飛んでいる。
この時間なら12時までには教会へ着くと急ぎかけ下がった。辻辻の電灯だけがほのかに私を照らしているだけだ。辺りは森閑としている。
ちょうど本社の上まで来た時であった下の方から提灯を下げた老婆がただ一人口に何やら唱えながらやってくる。
夜の伏見稲荷
夜目にもはっきり白髪の老婆、出会い頭に私は「おばあさんこんな遅くからお参りですか」とつい口走ったのであった。
する老婆「ヘイ信仰のない奴はいによりますのや」とただ一言、すたこらとすれ違ったのだった。
「何を言うかこの婆ァ」と思って私はニ、三歩行って振り返ったのであった。
誰もいない、今通り過ぎたあの老婆の姿はない、提灯の明かりもない。
ぞっとした私は鋭く心の締め付けられる思いであった。
そうだ神に誓った三回の練行、練行は一体どうしたのだ。心の緩み。
雨はますますきつい
いまさら弁解の余地はない。
とって帰ったのは言うまでもない。京屋を叩き起こした私は後の2回の練行は無我夢中であった。
終わった時は朝の4時であった。
神は常に色々な形で自分を試すものである。