(前略)
金剛道の生活は金剛経を読むことと、坐禅をすることのほかにはない。
金剛経 静かに読めば 自ずから
我と如来と 一つなりけり
坐禅して 非思量ならば 自ずから
我と如来と 一つなりけり
毎日無念になって以上述べた通りのことを、繰り返し繰り返し実行すればいいのである。
居士は21歳の頃から六十余年の間 金剛経を読み、学校出て弁護士に就職すること五十余年。そのうち三十余年間は農商務省の山林官民有区分の行政訴訟の大臣代理事務に従事し、傍ら禅、天台、真言の善智識について金剛経を専門に研鑽し、朝夕これを読誦して、いかなる難関もこれによって突破し、幸いに大過なきを得て、その事務を終わることができた。
そのあとは十数年、庵室生活をなし、戦災にて真の無一物になったが、何事もなさず、何事も考えず、ただ金剛経を読んでいるが、ありがたいことに何れからか生活の物資を恵まれ、八十六の老体であるが、いたって健康に恵まれ、無為にその日を送っている。
つづく