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観世音菩薩と同化 意訳 その3 濱地天松居士

濱地居士の法律事務所に、ある大事件の訴訟を依頼しに佐賀県小城の人、M氏が訪れた。

 

元は警部を務めた人で、小城の士族の代表として上京して、終始、濱地居士と接見していた。

 

しかし、その訴訟は複雑な難事件だったので、濱地居士はM氏に「この事件は私の手に余るので、私が建立した大船の無我相山の金剛尊天、観音さま、不忍池の弁天さまにお祈りしてよくお願いするように」と話した。

 

M氏は「自分の郷里である小城には清水の観音さまがお祀りされて、古来霊験不思議であると言われている。いま文明の世に観音さまの霊験があるかどうかはわからないが、濱地先生が無我相山でお祈りしてくださるなら、私も郷里に帰って小城の観音さまに御祈願する」と郷里に帰り、清水の観音さまにある四十余丈の滝に入り心身を清め、一生懸命に訴訟の勝利をお祈りした。

その後、東京に戻ってきたM氏は「濱地先生のご尽力と観音さまの御守護をお願いした以上は、勝ち負けにとらわれない。こちらが正しければ勝つ、不正義ならば負けてもよいと安心決定した」と。

 

不思議なことにその事件は勝訴したのだった。

しかし、裁判所の控室からM氏の姿がきえてしまった。

 

数日たってからM氏は濱地居士の弁護士事務所にやってきた。

M氏が語るには

「おかげさまで勝訴できて感涙のほかはありません。その場より消えたのは不都合でしたが、じつは早速郷里の小城の観音さまにお参りして、その御恩に感謝したのです。」

そして

「濱地先生。こんなことってあるのでしょうか、実はその観音さまの清水の滝に飛び入り、南無観世音菩薩とお唱えして、ふと顔をあげて向こうをみれば、空中に金色の観音さまが現れたのです。たいへん有難いと伏拝み、また顔をあげれば、その御姿は消えていました。そのあとは、一生懸命御称名して再び観音さまの御姿を拝しようとしましたが、何もおこらず、ただ滝の水音が聞こえるだけでした」と。

 

これは聞いた濱地居士は、ただ有難く、涙にくれて南無観世音菩薩とお唱えするだけだったのでした。